同世代が瀬戸に遊びにきてくれたとき、手放しで「行ってみて!」と紹介できるギャラリーカフェ「Art Space & Cafe Barrack」。2017年に美術家の近藤佳那子さんと古畑大気君がお店を立ち上げ、お茶をしながら気軽に現代美術に触れ合うことができる。瀬戸の案内本『まちをあるく、瀬戸でつながる』(ヒトツチ出版)で、おふたりにお話をお伺いしたものをすこしだけ再編集して、お届けします。「Art Space & Cafe Barrack」のはじまり「美術とわたしと、誰か。もうちょっと大きくいうと、社会。うまくいい関係 が築けないかなと思い、お店を始めました」 そう語るのは、近藤さん。愛知県立芸術大学卒業後、非常勤で高校の美術教 員と予備校の講師をしながら、美術家として作品を発表する道へ進んだ。「うちの大学でいうと、作家になりたい人は絵だけでは食べられないから、中 学校や高校の非常勤をしながら、制作をしていた。軌道にのれば、作家として 活動していきたいなあ、という人たちが多かったんです」卒業後、例に習って、高校や予備校の先生として働きはじめるも、学生たちが「受験」をどう乗り越えるかを考える日々。美術と関わっているのに、ずいぶん美術と遠いところにいるなあ、と感じ始めていた。「自分が絵を描く以外の時間も、美術と関われるほかの道はないか?」そんなことを考えていた頃に、瀬戸でアートスタジオを開こうと準備していた「タネリスタジオ」代表の陸さんから「一緒にアトリエを使わない?」と声がかかった。パートナーの古畑くんと話し合い、美術と美術の奥にいる人たちが、つながれるようなスペースをつくることに決めた。 近藤さんと古畑君は同じ大学の油絵専攻。在学中は仲間数名と「学食二階次元」という名前で、学内外の人の作品展示をする活動をしていた。 「愛知県は芸術系の大学が複数あるものの、卒業後、発表の場がない人たちも たくさんいる。僕が学生の時から考えていた発表の場をつくるということが、 ひとつの形になるかなと思ったんです」と古畑君。週の半分は絵を描き、半分はカフェを開くそこで、料理好きだった近藤さんがカフェ部門を担当し、古畑君 が、店の奥に併設されたギャラリーを担当し、ディレクションから展示までを 手がけるようになった。画家としての活動を続けるためにも、お店は木曜から 日曜にオープンし、月曜から水曜を自身の絵の制作にあてることにした。カフェのごはんは、お店ができてからずっと、彩りがアート作品のようなスパイスカレーが定番。まれに展示内容とメニューがリンクする。愛知のアート業界を支えるインストーラー(作品を効果的にみせる展示設営)の「ミラクルファクトリー」代表・青木一将さんの個展「直角喫茶」が開催された時には、カレーのお米が直角に盛り付けられ、とても印象的だった。その展示のときには、ちょうど古畑君がいて、いつもはとても寡黙ながら直角のすばらしさ、展示物がすべて直角であることについて、とても熱心に説明してくれて、作品への愛が止まらず、なんだかうれしくなった。ここには、美術関係者が多いのはもちろんのこと、何かしらものづくりをしている作家、それまであまり見かけなかった若い人を惹きつけ、出会いの場になっている。「人と出会うこと。それが自分の糧になっているというか、おもしろくて、やっています。ものをつくる喜びと、人に出会う喜び。ごはんも、つくること。わたしにとって、絵を描くほどの高揚感はないんですけど、日常のささやかな喜びみたいなもので、それが楽しいから、続けられているんだと思います」自分を形作るすべての要素を、肯定して生きていきたい。そう語っていた近藤さんの言葉は、何かをつくりだそうとする人に響く。写真:濱津和貴