国際芸術祭「あいち」地域展開事業「底に触れる 現代美術in瀬戸」令和6年10月11日(プレオープン)12日より一般公開から令和6年11月4日アルバイト募集します。8月のある日、「ArtSpace&Cafe barrack」の近藤さんから、こういうのは興味ない? といただいた、アルバイト募集のプリント。自分の町で国際芸術祭が開催されるなんて、そんな事一生のうちにあると思わなかった。やりたい。なにができるかわからないけど、やれることがあるなら関わってみたいと、おそるおそるQRコードを読み取り、必要事項を記入しました。現代美術の展覧会に参加したことがあるかという質問に、「瀬戸現代美術展」で「喫茶NISSIN」として、2日間クリームソーダ店を出しましたと記入しました。アルバイト・ボランティア説明会の日時の知らせが届き、9月6日午後6時 「瀬戸蔵」に集合。ボランティアの説明から始まりました。どちらかというとご高齢な方が多いボランティア希望者。愛知万博以来、この地域のシニアにはボランティアの志が育っていると感じています。しかし、説明が進むにつれ、会場はなんとも困惑したムードに包まれました。ゴミ拾いや交通整理、ビラ配りを想像していたシニアたち。自身で瀬戸の面白いところ、面白いと思う風景を探してマップを作るという、能動的で自己判断を求められることに、戸惑いが隠せません。私は後ろの方のアルバイト希望者の席で、面白そうだな、あっちの方がよかったなぁと考えていました。だけど、ボランティアがこんなに主体的に関わるのなら、お金をいただくアルバイトはそれ以上の何をするのかと不安にもなりました。ほとんどボランティアの「交流センター」「まちのリサーチ」で説明会は終わり、さまざまな申請、雇用確認書をいただいて帰りました。9月の半ば。書類を記入、提出スタッフLINEグループに参加しました。メールアドレスも交換して、連絡は全てデジタル。おばあちゃんには付いていくのがやっとです。開幕までの間、何をするのだろう、会場の安全管理をするのはわかるのですが、そんなの美術館の椅子に座ってる女性くらいしか見たことがありません。あれをするんだろうなと漠然と不安な気持ちになります。広告会社の営業だった45年前以来のお給料をいただく仕事です。本部から各会場の移動時間を測ってみます。かなり勾配があり、余裕を持った方が良さそうだと感じました。不安で、段々おなかが痛くなってきました。10月初め会期前からLINEが鳴り始めます。シフトの追加の急募。大量の穴が空いてしまい、シフトに入れる方を募集。切羽詰まり、悲痛ささえ感じてお気の毒です。娘に頼んで店を早退、平日の午後に1日入れていただきました。オープニングから5日目、10月16日。私の初めての勤務です。旧小川陶器店が交流センターであり、本部。朝礼のあと、おやつが配られました。え、ちよっと嬉しい。初めての持ち場は、無風庵。解錠のため、一緒に総括スタッフが付いてきてくれます。無風庵は、植村宏木作品。瀬戸市美術館の協力で、縁の藤井達吉の作品や使った道具なども展示されています。まずセキュリティを解除。野外展示のカバーを外し、保護綱を巻き取り、防犯ライトを外し、ソーラーバッテリーを立てます。中に入って、電気を通電。扉を開けて、雨戸を外します。雨戸! 何十年ぶりでしょうか。懐かしく雨戸を開け、開場しました。総括スタッフは次の会場へ、移動されます。山の上でひとりぼっち。そうだ、マニュアルを読まなくちゃ。会場マニュアル。安全対策、よくある質問。停電、防火、防災、破損、来場者同士の揉めごと。迷子、トイレの案内。まずは消火器を確認。虫除けスプレーを噴霧。警報発令時の対処。他県で原発事故が起きた場合、知事の指示に従う……。おなかが痛くなってきます。来場者ごとにカウンターをカチカチ。置いてあるスタッフ用椅子が、作家のテキストの真後ろで、見る方も見られる方もバツが悪い。本部の方がいらしたのでお願いして少し離していただきました。平日の午前は、来場者も少なかったのですが、普段あまり会えない知り合いに会えて、私が手伝っている事を喜んでくれました。出会いの芸術祭。初日の午後は、せと銀座通り商店街のポップアップショップ。引継ぎをして、無風庵の急な坂を下りてやれやれと思ったら、カウンターを首にかけたままです。やーん!またあの坂! フウフウ登って、カウンターを渡します。ポップアップショップのバックヤードでおにぎり食べて、お楽しみのおやつ。ビスコなんて久しぶりで、疲れた心と体にめっちゃ沁みました。ポップアップショップは、ユダ・クスマ・プテラ作品。写真作品と、瀬戸をイメージした言葉の陶片。動画、言葉の朗読はタネリスタジオの植松ゆりか。仲良しの2人以上の来場者が布で体を隠して、1人だけ顔を出して撮影する体験コーナーがあります。ユダさんの作品のような写真が撮れます。平日の午後、おひとりの来場者が多かったのですが、抱っこ紐の親子さんとお友だちが一緒に来られたのに上手く説明できなくて、撮影体験をされなかったのが残念で心残り。時間が来て、今度は施錠です。総括スタッフが手伝いに来てくれました。75個の陶片がちゃんとあるか数えて確認。外のパネル2個をしまい、傘立てをしまい、エアコンを止め、動画を止め、電源を切ります。真っ暗。懐中電灯で外に出て、シャッターを下ろし、自動ドアとシャッターに施錠。え? これは、今日だけなんだよね? 次は1人でやるんだよね、またおなかが痛くなる。本部センター「旧小川陶器店」には、光岡幸一作品廃業した陶器店の在庫に上絵付けしたものを「あとはどうぞご自由に」と来場者に持って帰ってもらい、使ってもらいたい。残れば産業ゴミとなるだけのものに新たな道をつけてあげる、素敵な行動作品です。包装紙も素敵。終礼が終わり、アルバイト1日目終了。会期が始まる前に、小中学の同級生Yちゃんが喫茶NISSINに顔を見せました。久しぶりだね、元気? とハグ。元気だよ、私今ボランティアやってるの、と。あらまぁ、「底に触れる」仲間でした。ボランティア楽しそうね。私もそっちにすればよかった。いやいや、こっちも結構大変なのよ。まちのリサーチして、マップ作って。その時は、まだ知らなかったけど、会期後半からボランティアによる「よくみるツアー」が催されました。アルバイトのある日、本部に戻る時Yちゃんに会ったので手を振ったら、めちゃくちゃ強張った顔してたので不思議に思っていたら、「よくみるツアー:とてもゆっくりゆっくり歩くツアー」のガイドに出かけるところでした。「本当に緊張されて、おなかが痛いと言ってましたが、とてもゆっくりゆっくり歩いて、子どもの頃の瀬戸の風景のお話しとか、素敵でした。楽しかったですよ」と総括スタッフから聞いて、Yちゃんやったじゃんとガッツポーズ。そんなボランティアが集めた瀬戸のまちの面白さ、見どころがピックアップされて、よくみるツアーが何本も実施されました。まさに地域展開。このイベントの真骨頂となったのではないでしょうか。10月23日 アルバイト2回目瀬戸信用金庫アートギャラリーにはギャラリーのスタッフがいらして、裏口から入ればもうセッティングされています。木曽浩太・田口薫作品。こちらで驚いたのは、北川民次人気でした。朝一番の来場者は、あれ? いつもここにあった民次の常設展どうしたの? 芸術祭のこういう時こそ、民次さん観てってもらわなあかんのに、とお怒り。ギャラリースタッフが丁寧に説明されて、会期が終わったら元に戻りますとなだめてくださいました。しばらくすると、おばあちゃんと息子と孫娘の3名様がご来場。あれ、ここ北川民次の展示館じゃないの? なんで? と、またしても民次ファン。またギャラリースタッフが説明。「11月16日から民次展をやります。その時にはカレンダーのプレゼントもあります」「ほんと?カレンダー貰えるの?。絶対来るわ、16日ね」と帰ろうとされます。あのちょっと、せっかくいらしたならと声をかけました。「この展示作品は、瀬戸市立図書館の北川民次壁画からインスピレーションを受けたものになっています。日本画の技法で、瀬戸の土を使って描かれているんですよ。もうお一人は、版画の技法で、こちらも民次作品と関係があります」ふぅんと足を止めて、展示を見てくださいました。へえ、これいいねぇ。かわいいねぇと写真たくさん撮っていかれました。帰りに瀬戸市立図書館にも寄って行くわとお帰りになりました。とても嬉しかったです。また、「底に触れる」が開催された期間中の10月19日には「坂道まぼろし夜市」が、瀬戸市立図書館前の坂道で開催されました。おふたりがモチーフにされた北川民次の「無知と英知」と「知識の勝利」がある建物や周辺が会場となって、すばらしかったです。瀬戸信用金庫アートギャラリーの2階応接室(エアコン効いて凄くいい匂いがする)でお昼ごはんのおにぎりとおやつを食べて、午前は終わり。午後は、瀬戸市新世紀工芸館。後藤あこ、井村一登、津野青嵐作品。1階と2階を2人交代で作品に付きます。1階には、ぐるぐると回る後藤あこ作品。じっと見ていると、右回り左回りの人型に脳みそを巻き取られそうになりますが、不思議に飽きないのです。あこさんのご両親が観覧にいらっしゃいました。「こんな舞台みたいな立派な台、誰が作ってくれたんですか。ぜひお礼申し上げてください」とのことでしたので、日報に記しました。(設置したのはミラクルファクトリーの皆さんだそうです)2階は、井村一登、津野青嵐作品。動画が2本。終了時間になったら、電源を切るのだけど、スイッチとリモコンがあって迷っていたら、もう1人の担当者に「マニュアル見ましょう」と言われて、ハッそうだ、マニュアルだ。マニュアル大事です。10月30日 アルバイト3回目午前は再び無風庵。藤井達吉の軸が変わっています。薬の包みからきのこへ。一旦、本部に戻ってお昼のおにぎりとおやつ。本部には「底に触れる」のボランティアのみなさんをサポートするラーニングチームの方たちがお勧めする本が置いてあります。その中で、高松美咲作の『スキップとローファー』という、石川県能登半島をモデルにした架空の町出身の高校生が主人公の漫画がめちゃくちゃおもしろくて、仕事帰りにも立ち寄って読んでいました。震災が起きる前の能登。能登を忘れないようにと読みました。午後は、再びのポップアップショップ。前回、1組も写真撮影ができなかったので、今度は張り切って声掛けをしました。ユダさんが撮った見本の写真を見せて、「こんな風に撮影できますよ」。布を巻くお手伝いもして、2組の方が撮影していってくださいました。思わずガッツポーズ。無事施錠して、終礼。11月1日「喫茶ニッシン」営業日ですが、午後のシフトに入れてもらいました。持ち場は、せと末広町商店街にある元旅館「松千代館」。地元なので、もう客引きしちゃいます。通りかかった顔見知りには、見てって見てって、中はいっていいんだよ。どうぞどうぞと声をかけます。毎日通るけど、何やっとるんやろうと思っとった。なにぃあんたの友だちぃい?これ瀬戸弁。名詞の語尾を上げて下げて上げると、質問形になります。波多腰彩花作品は、白く丸く、微かに蚊帳の中で輝いています。私の友だちではありません。私はアルバイトです。こちらの建物は「愛知工業大学」の学生さんのシェアハウスでもあり、施錠は責任重大です。総括スタッフが手伝いにきてくれて、電源を落として戸締まり、扉のロックを掛けました。会期はまだありますが、なんとか自分のシフトは穴を開けず、事故もなく、これでアルバイトを終了することができました。私が担当しなかった会場「梅村商店」。藤田クレア作品が展示されていました。音を奏でながら回る、貝殻や瀬戸の様々な場所で型をとったレコード。不思議な空間でした。どの会場も、見応えがあり共感するものがありました。11月4日、底に触れる最終日朝8:00、仕事前に無風庵に登りました。別れを惜しむためと、開場前の景色が見たくて。終わってしまうのが、なんだか寂しい。坂の途中、もうすぐ無風庵という所に同級生の家があります。ちょうど玄関を出てくるところに会いました。友人:「何ぃ朝からこんなとこで」私:「私、現代美術展のアルバイトしてるの」友人:「何ぃそれ」私:「来年、「国際芸術祭あいち」があって、瀬戸のまちなかが会場になるんだよ。その、一年前イベントやってるの知らないの」友人:「知らん」自分の家の坂のすぐ上で、現代美術in瀬戸やってても、知らない人は知らない。そんなものなのかな。残念だなぁ。もっともっと知ってもらって、来年を迎えたい。そんな気持ちで、これを書きました。知らない人や知ってても観に行かなかった人に、届きますように。(敬称は略させていただきました)ほんに瀬戸瀬戸よいところ瀬戸は火の町土の町チヨイト土の町♫