2021年に、古民家を改装してオープンした本屋「本・ひとしずく」の店主・田中綾さんが、すごい本を出した。その名も『ノートイレ! ノーライフ!』(1,650円税込)。これは、編集は綾さん自身が手がけ、約20名の書き手が、「トイレ」にまつわるエピソードを書いた作品集。「住職書房」「HUTBOOKSTORE」「本と羊」といった本屋仲間によるエッセイをはじめ、尾張旭在住の漫画家・INAさんによるマンガ、ほかにもショートショート、短歌、詩、写真、本紹介など、綾さんの人脈によって集まった著者の作品が詰め込まれています。この本がなぜ出版されたか?それは、「本・ひとしずく」にトイレを作るため。綾さん、ずっと言ってたんです。トイレがほしいって。ある日、お店に訪れると、使っていた公衆トイレが閉鎖したとのことで、綾さんが大騒ぎをしていました。なんでなくなったの、なんで? なんで? と。そうして、最初は復活を求め、役所などに確認を進めていたようでしたが、ある時から、自分の手でトイレをつくる! というプロジェクトに代わっていました。でも、トイレをつくるにはお金がかかる。どうしようか。その解決策が、トイレ本つくる! だったのです。エッ。本売って、トイレつくる?! 正気ですか、と思わずツッコミたくもなる。でも、綾さんは本気です。1,000部どーんと印刷したそうで、500部手売りして、500部は卸せば、なんとかトイレができるらしいのです。いや〜ぶっとんでます、綾さんは!本の中身は、トイレというテーマがあるとはいえ、笑いあり、涙ありの、かなり幅広い内容です。わたしが好きな作品は、瀬戸在住の写真家・KEIさんによる「いつもすること」。綾さんのお店でのルーティンを追っており、その合間、合間に出てくる、仮設トイレ。シュールですねえ。印象に残った作品でいえば、「INA」さんの「北棟美術準備室 横トイレ」。学園物語で、「誰かウ◯コしてるぞ〜」といった結果、本人たちもウ◯コできなくなって、どうしていたか、というお話。それから、詩人・エッセイストの犬飼愛生さんの「ごめんやったな」という作品もよかったな。犬飼さんが6歳のとき、お母さんにハイハイやつかまり立ちをする妹をみていてねと任され、直後にトイレに行きたくなってしまい、どうしようと葛藤する中で……。最後にトイレという存在は、普段はぞんざいに扱ってしまいがちだけれども、心底追い込まれ、辿りついた時には、神のごとく、神々しい輝きを放つ。私自身も、南米のアマゾン河のツアーで、小さなボートに10名ぐらいの外国人と乗船しているときに、お腹がギュルギュルギュル〜〜〜と痛くなった。どこにも逃げ場がなく、もはやいっそ川に飛び込むか。気絶寸前で、ボートに倒れ込んで、ふと空を見上げると、サングラスをかけたおばちゃんが大きな布を広げ、仁王立ちしていた。ビニール袋を手渡され、さあ! と。どうなったのかは、またどこかで。それにしても、『ノートイレ! ノーライフ!』は、秀逸なタイトルですネ。ぜひ、みなさん「本・ひとしずく」にトイレチャレンジを応援してあげてください! メラメラと燃える、綾さんの熱量が充満したこの本。想いを受け取ってください。